2025.04.09号 VOL.278
大切なことは時代劇が教えてくれた
こんにちは。株式会社シンカの稲村と申します。
4月に入り、テレビでは1週目から早々に新番組が放送されはじめ、昔より特番が
少なくなったように思われます。視聴者のニーズの変化や制作側のお財布事情が影響しているのでしょうか。
少し寂しい気がします。無くなって欲しくない季節の節目のイベントに
「日本アカデミー賞」があります。
3月14日に授賞式が行われた第48回日本アカデミー賞では、自主製作映画
『侍タイムスリッパー』 が最優秀作品賞を受賞しました。
裏話を知って思った事を綴ってみたいと思います。
それでは、『真価と進化 2025.4.9号』、最後までお付き合いください。
大切なことは時代劇が教えてくれた
制作に何億円もかけた大手映画会社の作品が並ぶ中、自主製作映画が最優秀作品賞を獲るとは
異例なことですよね。2018年に公開された『カメラを止めるな!』も話題になりましたが、
多くの映画関係者が「奇跡」であって、二度と同じことは起こらないと口を揃えて話していたそうです。
ご覧になっていない方向けに簡単に作品を紹介しますと、江戸時代の武士が
現代の撮影所にタイムスリップし、時代劇の“斬られ役”として生きていく姿を描いたコメディーです。
公開時は池袋シネマ・ロサのみの1館上映だったものが、SNS等で反響を呼び
累計で375館で上映され、大ヒットとなりました。
私は、昨年の10月にテレビ番組「ワイドナショー」で知り、監督が米農家を兼業されていて、
映画制作でも自らカメラ・照明などなど11役以上を兼業したという事に驚き、
作品自体にも興味が湧いて、劇場に観に行きました。
兼業だなんだという事業抜きにして単純に面白く、分かり易い作品という事もあり
家族や友人などに薦めました。そして、自分の行動からも、こんな風にして広まってきたのだなと感心しました。
低予算の作品であっても、ホンモノの時代劇を作りたいというコダワリがなければ
これほどヒットする出来栄えにはなっていなかったでしょう。
京都で撮影される時代劇が減少の一途を辿る中、巡り合った脚本の面白さと
安田淳一監督の情熱に触れ、東映京都撮影所をはじめとする時代劇のプロの方々が、
持ち出しに近い形で協力されたとの事です。時代劇の灯を消すまいと知恵を絞り
有りものの衣装やかつら、道具を工夫したりしながら、取り直しも何度もして
ホンモノへのコダワリを捨てずに作り上げたのです。
「時代劇を救って欲しい」、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で松重豊さん演じる
大部屋俳優の伴虚無蔵が呟いたセリフです。時代劇のプロの方々も『侍タイムスリッパー』に
救いの光を見たのかも知れません。
伴虚無蔵のモデルと言われる斬られ役の名優、福本清三さんも『侍タイムスリッパー』 への
出演が決まっていたそうですが、残念ながら撮影前に亡くなられてしまいました。
そのこともあり、監督は撮影を断念しかけた事もあったそうです。
5万回斬られた伝説の男、福本清三さん。ハイウッド映画『ラストサムライ』にも出演されています。
『侍タイムスリッパー』 の劇中作のタイトルが「最後の武士」です。
福本清三さんが出演予定だったことは知らなかったのですが、主役の師匠役の方が出てきた時、
福本清三さんがモデルなのではないかと思いました。この役を演じるはずだったそうです。
代役を演じられた後輩にあたる峰蘭太郎さんは、福本さんの名前入りの袴をはいています。
主演の山口馬木也さんも、東映京都撮影所に初めて入った際に、最初に声を掛けて
下さったのが福本さんだったと語っていました。劇中では、福本さんが生前着用されていた着物を
山口さんが着ています。東映京都撮影所の者なら誰でも福本さんの着物だと分かるものとの事。
福本さんの代名詞である"海老ぞり"も。
随所に福本さんへのオマージュがちりばめられています。
安田監督は受賞の際「最後まで物事を諦めずにやることを教えてくれた昨年死んだ父と、
そして頑張っていれば誰かがどこかで見ていてくれるといつもおっしゃっていた
福本清三さんに見せてあげたいです。本当にありがとうございました」と
感極まりながらスピーチされていました。
己が信じた道を諦めずに頑張る。侍スピリッツですね。
同じ日に劇場で鑑賞した『八犬伝』も、主人公の滝沢馬琴は侍ではないものの、
自分が面白いと信じた題材で28年もかけて大作を書き上げ、後世まで残しました。
無理しなくていいよという時代の空気ですが、やっぱり大事だなと思う団塊ジュニアです。
編集後記
先日『侍タイムスリッパー』 を配信で見返しました。配信は便利と思うものの
思い入れのある作品や、友人知人にも薦めたい作品は、モノとしてディスクで
持っておきたい派です。そんな私にとってショッキングなニュースが。
Panasonicに続きSonyでもBlu-rayなどの光ディスクの生産を終了したのです。
ディスクの整理が追い付いていないので、減らす良い機会と言えばそうなのですが、
諸事情で配信されない作品が多くならない事を祈ります。
それでは、次回もお楽しみに!
稲村 祥子