2026.03.25号
社名は魂
こんにちは。株式会社シンカ代表の田中です。
今日は、社名の重さを痛感した体験談をお伝えします。
約10年ほど前、弊社は経営難に陥り、M&Aによって救済された子会社として
親会社の管理下に入り、経営再建を図っている最中でした。
経営破綻寸前の会社を高値で買収したわけですから、
親会社としてはシナジー効果を得て、投資回収を図りたいところです。
しかし、思ったように事業シナジーは表れてこない。
それどころか、あまり言うことを聞こうとしない、厄介な子会社でした。
本心を親会社のオーナーに直接聞いたことはありませんが、
きっと、シナジーが得られないのであれば、吸収合併して儲かる事業をやらせるか、
あるいは、親会社の買収金額よりも高値で買い取ってくれる売却先が現れることを
期待していたのではないかと思います。合理的に考えれば当然の判断です。
とある日、親会社のオーナーからの呼びかけで、
「田中だけの話ではなく、現場社員の話が聞きたい」と言われ、
現場のリーダークラス以上のメンバーが集められました。
そこでオーナーから、
「シンカという会社を今後どうしたいと思っているのか。
何を改善すべきだと考えているのか。素直な意見を聞かせてほしい」
と質問されました。
しかし、そのニュアンスとしては、
「そんなに儲からないビジネスを続けるのではなく、
親会社と一緒になって、もっと儲かるビジネスをやらないか?」
という趣旨が、色濃く含まれているように感じました。
私を含めた大半のメンバーは、上場企業の大オーナーを前にして萎縮しながら、
それでも、吸収合併の方向に話が進まないように、恐る恐る言葉を選びながら発言していました。
そんな中、ある瞬間、ひょんな会話の流れから、
1人の社員が、突然こう言いました。
「私は、シンカという社名が無くなったら、辞めます」
上場企業グループの安定性があり、同僚も仕事内容も変わらず、
待遇は、もしかすると良くなるかもしれない。
それでも、シンカという、言ってみればただの「文字という記号」だけが
変わるだけで、辞めるとまで言う。
その瞬間、オーナーは「これは吸収合併はできないな」と判断したように、私は感じました。
そして私自身も、シンカという社名をこの世に残したいと願う仲間の存在に
大きな勇気をもらい、その後の経営改革とMBOを断行する決意を固めることができました。
社名は、ただの文字です。
しかし、そこには、確かに人間の魂が宿っているのです。
編集後記
私自身もシンカという社名、その由来である企業理念「真価と進化」
に惹かれて入社した人間です。そして、謎にその社名を世に残すことに
価値を見出している、妙なこだわりがあります。
社員の一言を聞いた時、一人孤独に戦っている私にとっては
涙が出るほど嬉しかった記憶が今でも鮮明に残っています。
そして、どんなに力関係の格差があろうとも、
庶民(社員)の素朴で率直な声は、天上人(株主)の心すら動かすものだと
痛感した貴重な経験でした。
株主や役員は強いかもしれませんが、それ以上に汗水垂らして働いている
人の心こそ、最も尊重されるべきものと私は信じています。
それでは、次回もお楽しみに!
執筆者プロフィール
株式会社シンカ
代表取締役社長
田中裕也
1981年生まれ。岩手県二戸市出身。一橋大学商学部卒。2004年、新卒でシンカに入社。
上場企業を中心に20年以上採用コンサルティングに従事。訪問社数は2500社を超える。
2014年、突如代表取締役を拝命。経営改革を経て、2017年にMBOを決断。
自社の経営改革の実体験から、現在は中小企業向けの組織改革・人事制度改革・
事業計画策定・新規事業立ち上げ、事業承継等の支援や、
持続可能な社会を目指して地方で宿泊業へのチャレンジも実践している。
2025年、社会保険労務士試験に合格(登録準備中)。